呆れるほど恋してる。
仕事というのは便利なものだ。
忘れたいものがあればあるほど、たくさんの雑務を入れることが出来る。
新店舗ができるまでの間、せりは総務課で仕事を手伝っている。
「川村さんって、営業成績がいいのに、あんまり鼻にかけないよねー」
加山さんが、書類にハンコを押しながらせりに言った。
「お店の子達のおかげですからね。私自身は何もしていないですよ」
「またまた、ご謙遜を」
にやりと笑って、肩を叩かれる。
どうして仕事仲間とは本音でぶつかることができないのだろうか。
本音をぶつけすぎて、恋愛はうまくいかなったが。
人との距離は難しいことばかりだ。
「謙遜じゃないですよ。支えてくれる人がいて初めて成り立つ仕事ですからね。全部ひとりでなんてできないですよ」
キーボードで店舗の発注票を受注しながら、呟くように言う。
「三山さんのプロジェクトにも抜擢されているのに、本当に鼻にかけないよね。関心しちゃう」
「むしろ、ここからが勝負ですよね。不安で足が震えてきました」
わざと小刻みに足を震わせながら、冗談交じりで言うと加山さんも笑った。
「何それ、川村さんおもしろーい」
午後からまた三山たちとの会議が入っている。
昨夜は、半分徹夜で案をまとめてきた。
デザイン部と高田と三山のイメージをこれなら上手く融合することが出来るのではないだろうか。
時刻を見るために、スマートフォンの画面を見る。
順からの連絡はきていなかった。