呆れるほど恋してる。


東京のオフィスビルで撮影が行われている。


モデルになっているのは、原田芽生。


有名な読者モデルで、彼女が紹介したものは必ず売れる。


だから、多くの企業が彼女に商品を無料で提供する。


ステマ商法とも言われているけれど、彼女は本当にいいものしか紹介しない。


たかが一読者モデルのくせにと陰口を叩く一般人は多いけれど、仕事のできる人間たちからは信用されている。


だから彼女に商品が集まる。


「ねえ、順さん。もっと気合入れて撮ってよ」


カメラのレンズ越しに、彼女が口を尖らせているのが見えた。


このレンズ越しにいる女性が違う人だったらと上の空だったのがばれたのだろうか。


「ごめんね。今日、芽生さん綺麗だったから見惚れちゃった」


「嘘つき」


一蹴される。


そんなに分かりやすいのだろうか。


「ごめんね」


「なんか、最近順さんかわったよね。前は、こんなところで謝ったりしなかった」


「そうかな」


「そう!全部あの人と出会ってから、順さん変わったよ」


シャッターを切るのをやめる。


フリーランスでカメラマン。


それが順の仕事だった。


彼女にどんな仕事をしているか言えなかったのは、成功体験がないからだった。


だからこそ、今度のチャンスには飛びつかなくてはいけいなのに。


「……」


「でも、順さんの写真の腕は芽生は信用してるよ。この間出したアイドルの写真集だって、売れ行き好調って聞いているし」


後ろから抱き着かれる。


暖かな人間のぬくもりが、服の上から伝わってくる。


「芽生さん、もとの場所に戻って」


「嫌だって言ったら、どうしますか?」


「……」


「あんな女に順さんを渡したくない」


「……」


「一緒にフランス連れてってよ」


せりには伝えていないこと。


なんで、彼女にはあっさりと伝えられたのか。


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