呆れるほど恋してる。
打ち合わせは、順調に進んでいた。
「初めまして、空間デザイナーの幸田 健(こうだ たける)です」
一風変わった名刺を取り出して、天才児と呼ばれているその男はせりに向かって営業スマイル全開だ。
黒ぶち眼鏡が非常によく似合う。
パーマがかった髪の毛は、少しだけマゼンダ色を混ぜているのだろうか。
赤みがかった茶色が、とても彼の白い肌を美しく見せていた。
負けじとせりも名刺を取り出して挨拶をする。
原宿の一角に作る新店舗。
周囲はH&MやFoever21など、有名店が立ち並ぶ激戦区。
あたればでかいが、負けてもリスクが大きい。
相当、セリーヌ・ヴィーナスが今回の三山とのコラボに力を入れているということである。
当たって当たり前。
それ以上の成果を求められている。
「ところで、アンティークな世界観とのことでしたが、先日送らせていただいた案はA案を希望されるとのことでしたが」
幸田が送ってきたのは、A案とB案。
選んだのは三山だった。
絶対こっちよ!A案よ!
こっちの方が、おしゃれだしかわいいわ!
会議室の中で、大きな声で叫んだため、みんな背中を押されるようにA案で行こうという流れになったのだ。
実際、せりもA案の方がいいと思った。
「はい。送られてきた案だとA案の方が、女性に好まれるとの結果になりまして」
「あんたさ」
「……?」
「バカでしょ」
「は?」
「普通、もう一度練り直させて、本当にこれが最善かやり直しとかさせるでしょ。本当にこの案がいい案だと思ってるわけ?」
唐突にバカ呼ばわりされて、思考がついていかない。
「……」
「だって、天才児とか言われてるけど俺まだ28歳だよ。そんな若手のことを全面的に信頼してもいいわけ?」
黒ぶち眼鏡の奥から睨み付けられる。
「いいと思っていますけど」
「本当に言ってる?」
「むしろ、幸田さん。そんな適当に作ったものを、我が社に送ってきたのですか?」
「……」
「……」
沈黙が二人を包む。
返答は間違っていないはずだ。