呆れるほど恋してる。
店に到着すると、健が先に仕事を始めていた。
スタッフがやればいいような仕事も自分でしている。
「おはよ」
素っ気なく言葉を吐いて健は、作業を続けた。
「早いんですね」
「あんたもだろ」
「まあ……」
家にいると悶々と考えてしまうからだとは言えず、せりは買ってきたコーヒーを口に含んだ後荷物を置いて「手伝います」と声をかけた。
「ありがとう。じゃあ、この道具取ってくれる?」
言われて指示されたものを手渡す。
「どうぞ」
「どうも」
静かに作業が進んだ。
会ってから2回目のはずなのに、なぜか黙っていても居心地は悪くなかった。
「川村さんってさ」
「はい」
「彼氏とかいるの?」
「はい?」
唐突に質問されて変な声が出てしまった。
それを聞いて健は声をあげて笑う。
「素っ頓狂な声出すなよ」
「いや、だって。そんなこと聞くような人に見えなかったから」
真面目に答えたせりの言葉に健は引き続き笑い声をあげながら、彼女を見た。
「で、いるの?」
一瞬順の顔が浮かんだが、彼氏ではない。
「……いない、ですけど」
歯切れが悪くなってしまった。
脈がない相手をずっと思い続けるなんて不毛だと思うけれど、こういう時に顔が思い浮かんでしまう。
「そうなんだ。でも気になる人はいるってとこだな」
「……」
「わかりやす」
肩をすくめて言う健に「勘弁してくださいよ」と小さな声でせりは言った。