呆れるほど恋してる。
三山が出張から帰宅して、自分の店舗に足を運ぶとそこには酷い顔をした芽生がふくれっ面をして立っていた。
「あら、美女が台無しよ」
商売道具を整理しながら、彼は彼女に話かけた。
「私が、フラれたの知ってるくせに」
「誰かに恋をしていたのね」
「……意地悪」
「……」
「順さんは、なんであんな女がいいの?」
椅子に腰かけ、足を組みながら芽生は「私の方が若くて、ずっとかわいいじゃん」と鏡で自分のプロポーションを見る。
三山の店舗にはあちらこちらに鏡が設置されている。
お客様がメイクをした時に、自分の変わった姿を確認できるように。
自分のトータルバランスがチグハグではないか、本当に自分たちが持っている洋服と化粧が合っているか確認してから帰ってもらえるように。
そんな気持ちを込めて鏡を置いている。
「世の中には、よく分からない男女の糸ってやつがあるんじゃないかしら」
何度ぶつかってもそれでもお互いが好きだと言い合うあの不器用な二人組の顔を思い浮かべながら、三山は言った。
普通あそこまでこじれたらなかなか、もう一度行こうだなんて。
好きだなんて言いきれない。
「運命の赤い糸ってこと?」
「そうねえ。強いご縁ってあるから」
三山の言葉に芽生は「……なにそれ、バカみたい」と小さく言葉を吐き捨てた。
そして、しばらく経った後嗚咽をあげて泣き始める。
「……好きなの」
「……」
三山は黙って聞いていた。
「順さんの作る世界観も、順さんも。あんな綺麗な世界を作る人見たことない」
静かな告白だった。
あてのない告白。
自分の気持ちを整理するための告白。
若い綺麗な涙が、彼女の頬を濡らす。
「芽生ちゃん」
「なんであの人なの?なんで?芽生の方がずっと順さんのことを幸せに出来るのに。順さんを傷つけたりなんかしないのに!」
取り繕った美しさよりもずっと美しいと思った。
泣き終わったら、彼女が一番綺麗だと思えるような自信が出るようなメイクをしてあげよう。
そう思いながら三山は「そうやって、女は少しずついい女になっていくのよ」と彼女の肩に手を添えた。