呆れるほど恋してる。
「フランスに行くんだ」
しばらくしてから、順が静かに口を開いた。
「……知ってます。ニュースでやっていたから」
頭の中で何度も繰り返したニュースをせりは再び反芻させる。
「そうか……」
「はい」
ポツポツと順が気持ちを語る。
写真を拾い上げて順は、せりに手渡す。
綺麗な風景写真がそこにはあった。
自分では絶対取れないような、美しくそして繊細な写真。
「やっと叶う夢なんだ。幼い頃からバカみたいだけど、ずっと追いかけてきた」
ずっと聞きたかった、彼の本音。
「うん」
そう返事をするのがやっとだった。
変に茶々を入れてしまうと、彼は口を噤んでしまう。
そんな気がして、何も言えなかった。
「……」
「……」
「あんまり自分のことを語るのは得意じゃないんだ」
案の定困ったように笑って、順はせりの手を取った。
優しく彼の手を握り返す。
「……」
「だから、フランスには行きたい。やりたいことがあるんだ」
自分の夢を叶えたいという順の言葉。
本音を聞いて自分と付き合えないと言った時の苦しそうな表情をした順の顔を思い出した。
フランスに行くかもしれない。
会えない時期が続くから別れてしまうかもしれない。
離れて消滅してしまうくらいなら、関係をスタートさせない方がいいのではないか。
「だけど、俺はせりさんが好きなんだ」
「……」
「好きで好きで仕方がない」
静かに順は言った。
「……うん」
「でもフランスに行くチャンスは捨てたくない。本当に申し訳ないけど、これが俺の最優先事項なんだ」
せりだって逆の立場だったら同じことを言うだろうと思った。
人生の一大イベントだ。
ただ、何年フランスにいるかも分からない順をい待てる自信もなかった。
「勝手なのは分かってる」
ごめんねと抱きしめられる。
好きだと何度も呟かれる。
そんな風に言われたら「いってらっしゃい」としか言えなくなるじゃないか。