呆れるほど恋してる。
順が日本を離れてから一週間が経った。
東京の街並みは一人の人間が国外にたったところで、あまり影響はないらしい。
毎日が同じように過ぎていった。
その日は礼子に呼ばれて、雑誌の取材の予定だった。
会社からは宣伝になるので、ぜひ受けに行けと言われている。
食事らしい食事はあまり取れていなかった。
ご飯を食べる気にはあまりなれず、地下鉄にある小さな売店でゼリー状の栄養食を購入する。
護国寺と書かれた看板を眺めながら、もうすぐ待ち合わせ十五分前だと空になったパックをゴミ箱に捨てた。
地上に出ると、太陽が彼女の身体を照らす。
大きな建物が目に入り、出版社だということが一目で分かった。
礼子に電話をかけると「エントランスで待っててくださいね」と柔らかい声で伝えられる。
信号を渡って、指示された場所へと急いだ。
「先日ぶりね。少しやせた?」
礼子がせりの肩を抱いて質問する。
シトラス系の爽やかな香りがした。
彼女の視線が、今度はせりの着てきたワンピースに移る。
順がプレゼントしてくれたワンピースだった。
本当ならセリーヌ・ヴィーナスの洋服を着て来るべきだったのだろう。
いや、着て来るべきだったのだ。
仕事なのだから。
ただ、特別な日にこのワンピースを着たかった。
礼子は「素敵なワンピースね」とだけ言って、特に何も言わなかった。