呆れるほど恋してる。



取材は簡単なものだった。


質問の定型文が決まっているようで、日々のスケジュールから休日の過ごし方など簡単な質問ばかりだった。


趣味である流行散策で、このワンピースに出会ったことを告げる。


写真に写る言い訳が出来た。


誰が買ったのかは言う必要はなかった。


「ちなみに、今回セリーヌ・ヴィーナスと三山幸平のコラボは川村さんがきっかけだったと聞きましたが」


レコーダーの位置を少しだけずらして、礼子が言った。


「実は私、化粧フリークで。雑誌もたくさん買って、美容系の本もたくさん持ってるのを知っているモデルの友人がたまたま三山さんのパーティーに誘ってくれたんです」


「へえ!誰だろ。うちの雑誌にも出てる子?」


「丸山友香って子なんですけど」


「あの子と友達なの?川村さんの交友関係って華やかね」


「色々な友達いますけど、モデルの子は友香だけですよ」


「充分よ。三山さんとだってこうやって知り合いになって、仕事で大成功を手にしてるんだから」


大成功と言われて困ったように微笑む。


手に入れるはずなのに、何もしっくりこない。


変な違和感だ。


「ありがとうございます。本当にたまたまだったと思っています」


「これだけ仕事が忙しいと、結婚とか考えられますか?」


静かに尋ねられて、せりは素直に頷いた。


「あら。そうなの?」


「少し前までは考えられなかったけど、今は結婚もしたいなと思っています」


「素敵な人がいるのね」


頷きながら、礼子はメモを取る。


レコーダーで音声は取っているが、礼子は自分でもせりの言葉を丁寧にメモを取ってくれていた。


自分の言葉を丁寧に拾ってくれる礼子の仕事の仕方が好きだった。


< 95 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop