呆れるほど恋してる。
店舗がオープンするまでの日々の流れは速かった。
あんなに悩んでいたのが嘘かのように、あっという間に前日になってしまった。
綺麗に並べられた洋服たちに、しっかりと磨かれたアクセサリーたち。
そして、この店のメインである三山とのコラボ製品。
右からハンドクリーム、リップ、ポーチだ。
ポップも完成して、スタッフの女の子たちもそろえた。
「……」
静かに溜息をつく。
明日から、この店の店長として売上を作って行かなくてはならない。
失敗は許されない。
プレッシャーを感じていると背後から「お疲れ」と肩を叩かれた。
「幸田さん……」
「短い間だったけど、一緒に仕事が出来て楽しかったよ」
「私もです」
こうやって、人と交わっては離れていく。
少しだけ寂しく切ない。
「よかったらさ……」
「はい」
「飯でも行かない?」
「え?」
「なんか、明日から輝かしいデビュー戦だっていうのに、しんどそうな表情してるから」
健はそういうと、店はどれにする?とスマートフォンを取り出して店を検索し始める。
「あの……」
「ん?」
「……」
何を言っていいのかわからなかった。
別に好きだと言われたわけでもないし、ただご飯に誘ってくれている健に「私好きな人がいるので」と言うのも変な話だ。
だが、待っている男がいるにもかかわらず寂しいという理由から、健に甘えるのもいかがなものか。