呆れるほど恋してる。
「昔さ……」
呟くように健がせりに向かって話し始めた。
「……」
「けっこうしんどい恋愛したことがあって、仕事上手くいきそうだったのに精神的にまいっちゃって失敗したことがあったんだよ」
スマートフォンをいじる指は止まっていた。
「そうなんですか……」
「三山さんから、少し聞いたというか聞きだしたんだけど、彼氏海外に行っちゃったんでしょ?」
「……」
「置いてかれるのってしんどいよな」
優しく言われて首を横に振る。
自分で選んだ道なのだ。
そして、この男の前で泣いてはいけない。
本能がそう告げていた。
今泣いたら、健を傷つけてしまような気がして。
順を裏切ってしまうような気がした。
「大丈夫……です」
消え入るような声で言うと、健は苦笑してせりの頭をポンと撫でた。
「大丈夫っていう時って大体大丈夫じゃないからな。話聞いてやるから、話せよ。二人が気まずいなら俺の友だちも呼んでやるから」
そこまで気遣いをされなくてもと思いつつも、健の優しさは身に染みた。
でも泣かない。
仕事関係を崩したくない。
「……」
「俺なら泣いている暇もないほど、愛してやるけど。その男が相当好きなんだな」
健の言葉にこくりと頷く。
しんどい。
動かなくてはならないと分かっているのに、動けない。
「私……」
「……うん」
「……自信がないんです。彼のこと好きだけど、彼が私を覚えててくれるのかとか」
「……」
「上手くいかないことばっかり考えてしまうんです」
泣くな。
泣くな、私。
自分に言い聞かせながら正直に健に伝える。