クールな公爵様のゆゆしき恋情
中にはたった一枚だけ、小さな紙が入っています。


【邪魔者は王都から去れ。第二王子には想い人がいる】


書いて有る文字は初めて見た時から記憶してしまっていて、忘れる事が出来ません。だから分かっている事なのに、私は今もまた憂鬱な気持ちに陥り、大きな溜息を吐き出しました。

それでも昔よりは大分ましにはなっています。初めて見た時は、手紙を持つ手が震えて止まりませんでしたから。


この手紙が届いたのは、私が社交界デビューを果たした年の誕生日の事でした。

王都に有るアンテス家の屋敷には、お父様と関わりのある貴族の方や、アンテスで親しくしていた人達から沢山のお祝いの品が届きました。

アレクセイ様からも贈り物が届きました。大輪の薔薇の花束でしたが、その花束にこの手紙が隠されていたのです。

アレクセイ様からの花束に入っていたのですから、私は喜び、何の警戒心も無く手紙を開きました。

そして眩暈がする様な衝撃を受けたのです。




この手紙は誰が書いたものなのかは、今でも分かっていません。封蝋も無く、手がかりになる様な事は何も書いていないからです。


私は、この手紙の事を誰にも言えませんでした。

なぜなら私は、この手紙を書いたのはアレクセイ様本人では無いかと疑っていたからです。


私なりに調べましたが、手紙が仕込まれていた花束は確かにアレクセイ様の命令でお城から送られて来たものでした。

アレクセイ様に憧れて私を邪魔に想う令嬢は沢山居ましたけれど、嫌がらせの為にアレクセイ様が用意した花束に手紙を仕込む事など出来るとは思えませんでした。

それに、私の社交界デビューの夜会の時、アレクセイ様はエスコートをして下さりませんでしたし、それ以降の夜会でも、私の存在を無視し続けました。
私は、アレクセイ様から疎まれている事実を嫌と言う程実感していたのです。


アレクセイ様には想い人がいる。私は邪魔な存在で嫌われている。

アレクセイ様の態度は、まさに手紙に書かれていた通りでした。

それなのに私は諦める事が出来ずに、アレクセイ様に振り向いて貰いたくて、報われない努力をそれからも続けたのです。

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