クールな公爵様のゆゆしき恋情
王都の屋敷の自分の部屋で目覚めた私は、不思議な感覚に襲われました。

なんだかとても幸せな気持ちなのです。心が温かく穏やかな気持ちで安心しているのに、楽しくもあります。

とても良い気持ちですが、直ぐにその理由が寝ている間にみた夢のせいだと気付きました。

夢といっても私の空想なんかでは有りません。あの夢は私の幼い頃の記憶なのですから。



私は幼かったから詳しい事は覚えていないのですが、十年と少し前に隣国が攻めて来た事がありました。

国境に位置するアンテス家は国で一番先に戦いを始めます。領地が戦場になる可能性も有りました。

その頃身篭っていたお母様と幼い私は、危険を避ける為に、王都にあるお母様の生家の伯爵家でお世話になっていました。

まだ事情が理解出来なかった私は、突然家族が離れ離れになった事が悲しくて、毎日泣いて過ごしていました。

伯爵家のお屋敷の隣には侯爵様のお屋敷が有りました。ベルハイムの王妃様の生家です。
アレクセイ様は侯爵様のお屋敷によく遊びに来ていて、年の近い私達は自然と仲良くなりました。

あの頃のアレクセイ様は私にもとても優しくて、家族と離れ離れになって寂しがる私をいつも気遣ってくれました。

今となっては信じられませんが、ずっと一緒に居ると約束までしてくれたのです。

私が王都にいる間、その約束は守られました。
私達はまるでひばりの番いの様にいつも一緒に過ごしたのです。幸せで楽しかった思い出でいっぱいです。


戦が終わり私がアンテス領に戻る時、大人達の思惑でアレクセイ様と私の婚約が成立しました。
アレクセイ様は「勝手に決めるなよ」と口では文句を言いながらも、「でもラウラならいいか」とお日様の様に輝く笑顔を見せてくれました。




幼い頃の思い出は私を幸せにしてくれます。でも同時に切なくもなります。

あの頃のアレクセイ様はもういません。

アレクセイ様はどうして変わってしまったのでしょうか。どうして私は嫌われてしまったのでしょうか?

何年も答えが出なかった事を、今再び考えこみそうになった私はハッとして気持ちを切り替えました。

昔の夢なんて見てしまったせいで感傷に浸りそうになってしまいましたが、今日は私が王都を出る日です。

過去を振り返って落ち込んでなんていられません。前に進むと決めたのですから。

アンテス領での新たな暮らしを思い描きながら、私は出発の準備を始めました。


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