クールな公爵様のゆゆしき恋情
恥ずかしくて仕方ありません。
今すぐこの場から逃げ出したいです。
今、私は羞恥心に震えています。
私達を呼びに来たアンネは、私の姿を見て、目を丸くしました。
ノックの音でアレクセイ様から解放されてはいたものの、私はすっかりのぼせていましたし、髪も乱れてしまっていました。
何があったか一目瞭然だったと思います。
ですが、アンネは余計な事無は何も言いませんでした。
私に椅子に座るように促すと、髪を綺麗に梳かし、結い直し、再び絶妙な位置にパールの髪飾りを止めてくれました。
凄く、気まずいです。恥ずかしいです。
ですがどんな言い訳をしても墓穴を掘るだけな気がして、私は居たたまれない気持ちで静かに座っているしかありません。
だから、止めてと言ったのに!
少し離れた所で、私の支度が終わるのを待っているアレクセイ様に、恨みの視線を送りました。
アレクセイ様は全く動揺している様子は無く、私と目が会うと、それは甘やかな笑顔になりました。
……今そんな顔をするのは止めてほしいです。
アンネが居るから平常心を保たないといけないのに、顔が赤くなってしまいそうです。
落ち着いて……無心にならなくてはなりません。
「終わりました」
アンネの声に私はホッと胸を撫で下ろしました。同時にアレクセイ様が近付いて来ます。
「では行こうか」
アレクセイ様が、エスコートの手を差したその時、アンネが思い出した様に言いました。
「あっ、待って下さい。口紅がすっかり落ちてしまっていますから直さないと」
私は今度こそ顔が真っ赤になるのを止められませんでした。