クールな公爵様のゆゆしき恋情
お兄様の声です。しかも私の事を話している?

立去ろうとしていた歩みを止め、私は声の方を振り返りました。

こんな風に人の話を聞くのは良く有りません。盗み聞きになります。ですが私は二人の話が気になってしまい、どうしても立去る気になれません。

立ち尽くしていると、再びアレクセイ様の声が聞こえて来ました。

「後悔している。もっと違う道も有ったはずなのにと何度も思った」

心臓がドクリと跳ねました。

後悔している。違う道……それは私との婚約の事なのでしょうか?

「まあそうだろうな。けど過去の事をいくら言っても仕方無いしな。これからはラウラとなんとかやっていけよ」

「そう簡単に言うな」

憮然としたアレクセイ様の声、続いてお兄様のからかう様な声が聞こえて来ます。

「問題ないだろ? まさかデリア嬢とやり直したいって訳でも無いだろ?」

アレクセイ様は答えません。

「それともアメルダ男爵の令嬢を愛人にって話を受けるのか?」

もう聞いていられませんでした。

私は踵を返すと夢中で走り、大広間へと向かいました。


沢山の人達の中に紛れると、私は大きく息を吐き、壁際へと向かいました。

目立たない所に立ち、息を整えます。

広間には華やかな曲が流れています。楽しそうに踊る人達。幸せそうに笑う人達。

少し前までは私もあの中の一人だったのに。

悲しみが全身を巡っていきます。苦しくて仕方が有りません。でも涙は出て来ません。絶望も過ぎると泣く事も出来ないのでしょうか。
< 131 / 196 >

この作品をシェア

pagetop