クールな公爵様のゆゆしき恋情
立ち止まりぼんやりとお城を眺めていたからか、リュシオンが呼びかけて来ました。

「ラウラ姫、どうかしましたか?」

「いえ……何でもありません」

私は前を向いて再び馬を進めます。

しばらく無言で進んでいましたが、遠くに湖のお屋敷が見えて来るとリュシオンが言いました。

「先代辺境伯夫人には、私も目をかけて頂いていました」

「え……ああ、そうですね。おばあ様はリュシオンの事が好きで自分の孫の様に思っていましたから」

おばあ様はリュシオンが今程の功績を上げる前からその人柄を好ましく思っていて、私がお屋敷に来る時の護衛はリュシオン以外認めないと言い放っていたくらいです。

「孫などとは恐れ多い事ですが、ラウラ姫の護衛で湖の屋敷を訪れる度に、様々な事を教えて下さいました」

「どんな事を習ったのですか?」

ばおばあ様とリュシオンが話しているのは知ってましたが、二人の会話の内容までは知りません。難しそうな話しに加わるより、花を見て回りたかったからです。

「あらゆる事です、花言葉に始まり、毒草の見分け方、空を見て明日の天気を知る方法。女性が喜ぶ言葉のかけ方」

「なんだか……思っていた事と違うのですね。おばあ様とリュシオンは領地の防衛の事とかもっと難しい事を話していたのだと思っていましたから」

「私にとってはどれも興味深い事でしたよ。騎士の訓練や講義では知り得ない事ばかりでしたから。そして、話の後にわたしはいつも言われました。“人の心を開くには、まずは自分の心を相手に見せないといけません”と」

リュシオンは穏やかな目で私を見つめて言います。

「おばあ様は、どうしてそんな事をおっしゃったのでしょうか?」

「私が心を隠している事が、歯痒かったのかもしれませんね」

「リュシオンはおばあ様に毎回言われる程、いつも心を隠していたのですか? そんな風には見えませんが」

首を傾げると、リュシオンは小さく笑いました。

「いつもでは有りませんが、どうしても口に出来ない事も有りました」

「そうですね……」

それは私にも言えた事だと思いました。
王都に居る頃、私はアレクセイ様に何も言えませんでしたから。そして今でも。

アレクセイ様の不実を知りながら、こうやって逃げ出して来てしまったのですから。

「リュシオンは、おばあ様の教えを今でも守っていますか?」

「……私は未だに出来ないでいますよ。きっとこの先も。ですが、先代辺境伯夫人の言葉は間違っていないと思います。真摯な訴えこそが人の心を開くのだと思います」

リュシオンが隠している事とは何なのでしょうか。
気になりましたが、私にはそれ以上詮索する事は出来ませんでした。
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