クールな公爵様のゆゆしき恋情

アレクセイの失恋

今夜の夜会には、珍しくラウラが来る。
会うのは一月ぶりだ。早く顔が見たくて堪らない。

いつもなら面倒でしかない夜会だが、今夜の俺は時間よりも前に自室を出た。


ベルハイム王宮の夜会はいつだって盛況だ。
大広間には、澄ました顔の貴族達で溢れている。


「アレクセイ王子殿下」

大広間をゆっくりと歩いていると、早くも声をかけられた。

派手に着飾ったこの令嬢は、確かデッセル伯爵家の長女、カテリナだったな。
口数が多い割に、中身の無い話ばかりする疲れる相手だ。

俺はうんざりしながらも、長年培って来た王子としての愛想の良い外面で、適当に相手をする。そうしている内に、多勢の令嬢達に囲まれていた。

皆、競う様に話しかけて来る。
俺には昔からの婚約者が——ラウラがいると分かっているはずなのに、遠慮する気配は全く無い。

「アレクセイ様、ご存知ですか? 最近女性達の間では、意中の人の色の装飾品を身に付ける事が流行っていますのよ」

「それは知らなかったな」

どうでもいいと思いながらも、適当に相槌を打つ。

「男性からは、愛情の証に自分の色の装飾品を贈るんですの。王都の宝石商には注文が殺到していると評判ですわ」

流行らせたのは、その宝石商なんじゃないか?
そんな事を考えていると、カテリナが突然高い声を出した。

「デリア様。素晴らしいサファイアの髪飾りですわね。とてもお似合いです」
「まあ、ありがとう」

いくらなんでもわざとらしい。
そう言えば、カテリナは公爵令嬢デリアの腰巾着だったな。

「デリア様、サファイアはアレクセイ様のお色ですわね!」
「ええ……憧れのアレクセイ様の瞳の色を身に付けました。アレクセイ様、いかがでしょうか?」


デリアが含みを持った視線を送って来る。
淑女なんてよく言ったものだ。と心底呆れつつも顔には作った笑顔を浮かべる。


だが、そうしている間もさり気なく広間に視線を走らせる事は忘れない。

……まだ来ていないのか?
< 170 / 196 >

この作品をシェア

pagetop