クールな公爵様のゆゆしき恋情
強敵
ビリビリとする緊張感に、背中に冷たい汗が流れて行く。
ラウラがアンテスに旅立った事実に茫然自失した俺だが、何とか立ち直り、辺境伯への面会を申し入れた。
ラウラに会えないのは辛いが、アンテスまで追いかけるより先に、辺境伯へラウラとの結婚の許可を取り付けないといけないからだ。
ラウラが説得に応じて、婚約解消を取り止める気になったとしても、辺境伯が反対すれば何の意味もなくなってしまう。
とにかく今は辺境伯へ謝罪をして、ラウラとの事を認めさせるのが先だ。幸い辺境伯は温厚な性格だ。俺の謝罪を無碍にはしないだろう。
甘く考えていた俺は愚かだったと言わざるを得ない。
辺境伯は俺の予想以上に怒っている様で、それを隠す気もないようだ。
「アレクセイ様、何の用でしょうか?」
顔を合わせた途端冷たく言い放たれた。
そう言えば、アンテス屋敷の使用人達の視線も冷たかった。
今までなら、執事が「王子殿下。ようこそおいで下さいました」と言いながら迎えに出て、下に置かないもてなしだったのに、今日は「いらっしゃい」の一言もない。
主人の怒りに倣っているのか?
それにしても……俺は明らかに機嫌の悪い辺境伯をチラリと盗み見て、内心溜息を吐いた。
俺に向けられているのは、ここは戦場で俺は敵国の人間か?と疑いたくなるほどの、攻撃的な視線。
どう見ても、娘との事は好きにして下さい。なんて言いそうにない。
それどころか、俺をラウラの側から排除しようとしている。
……強敵だ。
だが、ここで怯んでいてはラウラとの距離がどんどん開く一方だ。
俺は覚悟を決め、辺境伯に向かって宣言した。