クールな公爵様のゆゆしき恋情
「お姉さま本当に行ってしまうの?」
見送りに来てくれたのでしょうか、馬車の前に佇んでいた妹のグレーテが寂しそうに言います。
「グレーテ。湖のお屋敷までは直ぐですから寂しく有りませんよ。今度リュシオンに連れて来て貰うといいわ。綺麗なお花を見せてあげるから」
「お花?」
「そう。アンテスのお城にはあまりないけど、グレーテは綺麗なお花が好きでしょう?」
「はい大好きです! 絶対行くから約束よお姉さま!」
さっきまで不安そうな泣きそうな顔をしていたグレーテがぱあと輝く様な笑顔になりました。
アンテスのお城は沢山の騎士達が出入りする為か、とても実用的な造りで王都の貴族の屋敷の様な広々とした庭園が有りません。
グレーテは女の子らしく綺麗なものが大好きですから、お城では珍しい色鮮やかな花畑を見るのが楽しみなのでしょう。
小さな手と指きりをしていると、渋い顔をしたお母様がやって着ました。
「あなたは一度言い出すと聞かないのだから……勝手に王都から戻って来るし、婚約解消までするし、貴族の娘が結婚もせずに引きこもって土いじりをしようだなんて……あなたはもう18歳なのですよ? 自覚が有るのですか?」
お母様は私に対する不満を延々と並べて行きます。伯爵家の娘として王都で育ったお母様はとても貴族らしい考え方の女性なので、私の今の状況が受け入れられないのです。
それを許したお父様に対しても不満な様で、先日など抗議の手紙をしたためていました。
アンテスに戻ってから怒られてばかりで少しうんざりしてしまいますが、でもお母様が口うるさいのはそれだけ私を心配してくれているからなんですよね。
「ごめんなさいお母様。でも私は大丈夫ですから」
そう言うとお母様は泣きそうな表情になりながらも、強い口調で言いました。
「あなたの結婚相手は私が探しておきます。今後は婚約解消なんて許しませんよ!」
それは……困ってしまいます。
私は聞こえなかったふりをして、ドレスのスカートを摘んで令嬢らしく礼をしました。
「お母様、グレーテ行って参ります」
リュシオンに助けて貰って馬車に乗り込みます。
まだまだ言い足りなそうなお母様と、元気に手を振るグレーテを残して馬車は進みます。
少し、はしたないけれど、遠ざかる二人に大きく手を振りました。