クールな公爵様のゆゆしき恋情
アンテス城の玄関ホールでフェルザー公爵を出迎えます。
迎えに出ているのは、私とアンネ。お父様の側近クレメンス。それから数人の護衛騎士です。

私はもう一度自分の姿を確認しました。

新しく仕立てた、マダム・ベルダ会心の出来の薄紅色のドレスは、上半身はぴったりとウエストが細く見える様な作りになっています。スカート部分は金糸で飾りを付けた華やかな生地が幾重にも重なり、ふんわりと足元まで覆っています。襟元は大きく開きルビーのネックレスが引き立つ様になっています。

髪はアンネの手によって複雑に結い上げられ、金の髪飾りで止めています。お化粧も久しぶりにしっかりとしました。

朝から時間をかけて支度をして、装いは辺境伯の娘として相応しいと言える仕上がりになっているはずです。

アンテスに戻ってから着飾る機会は無かったので、支度だけで少し疲れてしまいましたが。


待っている時間は長く感じます。
そのせいかいろいろ考え事をしてしまいます。

こうやって身なりを整えてしっかりと準備をしていても、不安な気持ちが襲ってきます。

アンテス家の者は今この場では私一人です。頼りのリュシオンも今は居ません。

国王陛下からフェルザー公爵家当主の位を任せられる様な方と、私が対等に話す事が出来るのでしょうか。

だいたい、未婚の貴族の娘がこんな風に婚約者候補を一人で出迎えるなんて聞いた事が有りません、常識としてどうなのでしょうか? 本当にこれで良いのでしょうか?

元々アンテスに戻ってからの私の行動は貴族女子としては規格外ですので、あまり大きな声では言えないのですが。



頭の中で半ば愚痴に近い事をぐるぐると考えていると、外が騒がしくなりました。

フェルザー公爵様がいらっしゃったようです。

緊張が一気に高まり、私は背筋をピンと伸ばしました。
不安でいっぱいの私ですが、せめて見た目は堂々とした令嬢に見える様にと。



大きな扉が開かれ、高位騎士の案内でフェルザー公爵様が姿を現す……はずでした。

ですが、私の視界に飛び込んで来たのは、予想もしなかった黄金の煌き。

磨き抜かれた大理石の床を颯爽と歩いて来るのは、ここに居るはずのない、ベルハイム第二王子殿下ーーアレクセイ様でした。


信じられない光景に、私は礼をするのも忘れてただ呆然と立ち尽くす事しか出来ませんでした。
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