クールな公爵様のゆゆしき恋情
アレクセイ様は私から少し距離を置いて立ち止まりました。

小さな声でも聞き取れるけれど、手を伸ばしても触れる事は出来ない微妙な距離です。

私は動く事も、声を出す事も出来ませんでした。

この状況が理解出来ないし受け入れられないのです。どうすれば良いのか分かりません。

まるで彫刻の様に微動だにしない私にしびれを切らせたのか、アレクセイ様の方から声がかかりました。

「出迎えの挨拶も無いのか?」

その冷たい声にビクリと身体が震えました。
アレクセイ様とはもう半年以上も顔を会わせていません。

でも私に対する態度は以前と変わらず冷たく素っ気無いままです。アレクセイ様の私に対する嫌悪感は、婚約解消をした今でも消える事は無いようです。

対照的に、私はこの半年でアレクセイ様の冷たい物言いに対する耐性を失ってしまった様です。アレクセイ様のあからさまな嫌悪の態度で心が傷付くのを感じました。

痛みと悲しみが身体中を巡ります。

アレクセイ様への恋心も執着も捨てて新しい暮らしを始めたはずですが、こうやってお顔を見てしまうと、忘れたはずの気持ちを簡単に思い出してしまうのです。

どうして私は何時までも本当の意味で割り切る事が出来ないのでしょうか。

少しは強くなれたと思っていたのに……自分の弱さが情けなくて、涙が出そうになりました。

でも、ここで、アレクセイ様の前で泣く訳には行きません。

私は必死に心を落ち着かせて気持ちを切り替え、アレクセイ様に頭を下げ礼をしました。
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