クールな公爵様のゆゆしき恋情
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳有りませんでした。アレクセイ様……いえ、王子殿下がいらっしゃるとは存じ上げませんでしたもので、大変失礼を致しました」

なんとか言葉を紡ぎながらも、心臓が煩く脈打つのは止められませんでした。
アレクセイ様がなぜ今ここに居るのかが、全く分からないからです。

エステルとお兄様の結婚祝いの席に参加する為にいらっしゃったのでしょうか?

そうだとしてもなぜこんなに早く来るのでしょう。
今、アンテスには私しかいない事は、王都での結婚式に参列したアレクセイ様なら分かっているはずなのに。


「今日到着すると使者を出したはずだが」

混乱する私にアレクセイ様が放った言葉は更に追い討ちをかけました。

「え……」

それはどういう事でしょうか?

今日到着すると知らせが有ったのはアレクセイ様ではなく、フェルザー公爵だったはずです。

そう考えた次の瞬間、頭の中で一つの予想が浮かびました。でも、まさかそんな……。

考え込み黙ったままの私に代わり、一歩後ろで控えていたクレメンスが、アレクセイ様へ言いました。

「フェルザー公爵閣下、遠路はるばるお運び頂き拝謝いたします。我らアンテスの民一同心より歓迎の意を申し上げます」

クレメンスの言葉は衝撃でしたけれど、ほんの少し前に私が予想した通りでした。


新しいフェルザー公爵とはアレクセイ様の事だったのです!

なぜアレクセイ様が王都から離れた領地の当主になったのかは分かりません。

ですが、王族であるアレクセイ様だったら、貴族の最高位である公爵位に就いてもなんの問題も有りません。
王位を継がない王子殿下が、爵位を賜り臣籍に下る事はベルハイム国では珍しい事ではないのです。

でも、私にとってはこの事実はこの場で倒れてしまいそうな程、衝撃的な事でした。
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