クールな公爵様のゆゆしき恋情
クレメンスの先導で、私達は応接間へ向かいました。

城の一階中庭に面したこの応接間は、実用性を重視しているアンテス城の中で、最も華やかで贅を尽くした一部屋です。

乳白色に金を塗した色合いの壁に映える大きなシャンデリア。
白と金を基調としたソファーは、柔らかく最高の座り心地です。
金細工の調度品に、所々に飾った鮮やかな赤い花が美しいです。

ここで、クレメンスとアンネ同席の元、初対面のフェルザー公爵と穏やかに対話をする予定でした。

ですが、現実は穏やかさとは程遠い呼吸すら難しく感じる緊張感の中で、私はフェルザー公爵であるアレクセイ様と向き合う事になったのです。
会話など出来る訳がありません。

更に悪い事に、アレクセイ様は心配そうなクレメンスと、私以上に混乱するアンネに対し部屋を出る様に言いました。

「公爵閣下、お言葉ですが……」

貴族の令嬢が男性と二人きりで部屋で過ごす事はマナー違反になりますので、クレメンスはアレクセイ様に反論しようとしました。

ですがアレクセイ様はそれを許さず、応接間の扉を完全には閉じない条件は飲んだものの、クレメンスとアンネを部屋から出してしまいました。

つまり、私とアレクセイ様は応接間で二人きりになってしまったのです。

あまりに心細くなった私はそれを誤魔化す様に早口に言いました。

「お茶が冷めてしまいましたので入れなおします」

少し離れた所に、侍女が用意したティーセットが有りますので、温かいお湯でお茶を入れ直そうと思いました。
動いていた方がこの居たたまれない時をやり過ごせる気がしたのです。

ですがアレクセイ様は立ち上がろうとする私を止めました。

「話がある」

少しの親しみも感じない、緊張を孕んだ声。

「……はい」

臣籍に降りたとは言え、公爵位のアレクセイ様の身分は、私よりずっと上です。

従わない訳には行かず、私は言われた通り椅子に座り直しました。


アレクセイ様のお言葉をただじっと黙って待ちますが、なかなか声がかかりません。

どうしたのかと恐る恐る様子を窺うと、アレクセイ様の視線は私の首元に有りました。
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