クールな公爵様のゆゆしき恋情
「あの、アレクセイ様?」

「……その首飾りは、最後に会った夜会で着けていたものだな」

「はい」

そう言えば、あの時もアレクセイ様はこのネックレスを気にしていました。
おばあ様から頂いた、温かみのある赤い色味のルビー。
何か気になっている事があるのでしょうか?

「このネックレスがどうかしましたか?」

アレクセイ様は返事をしてくれませんでした。苛立った様子で眉間にシワを寄せただけでした。

……胸が痛みます。
私はもう部屋を出た方が良いのではないでしょうか。アレクセイ様も私といては気分が悪くなるだけでしょうし。

でも話が有るとおっしゃっていましたよね、勝手に出て行く訳にはいきません。早くお話して下さらないでしょうか。

そんな事を考えながら待っていると、アレクセイ様が漸く話を切り出しました。

「先日、国王陛下よりフェルザー公爵の位を賜った」

「はい」

臣籍に降り身分が下がった訳ですから、おめでとうございますと言って良いものか迷ってしまい、簡単に相槌を打つに留めました。

フェルザー公爵の位を得た事はアレクセイ様が望んだ事だったのか、私にはそのお心が分からないからです。

アレクセイ様のお顔には皮肉な笑みが浮かべました。

「どうでもいいか? 王都を出た後、俺の動向など気にも留めていなかったって訳だな」

「いえ、どうでもいいと言う訳では……」

私の言葉はどうして悪く捕らえられてしまうのでしょうか。

悪気など少しも無いのに、何をしても言ってもアレクセイ様のお怒りを買ってしまいます。

婚約解消したのに少しも関係は変わっていません。

どうして私達はこんな関係になってしまったのでしょうか。
以前はお互い笑いあっていられたのに。


アレクセイ様は政略的な結婚から解放され自由になりました。私を恨む必要はもう無いはずではないでしょうか?

そう考えた瞬間、気が付きました。

アレクセイ様がフェルザー公爵なのです。そしてフェルザー公爵は、私の婚約者候補だと言うお話です。

つまり、私の婚約者候補はまたアレクセイ様と言う事になるのです。

愕然としました。

だって、こんな事って有り得ません。

アレクセイ様は嫌いだった私と、また政略的な事情で、婚約しなくてはならなくなったのですから。

アレクセイ様が、半年前と変わらず私に対してお怒りな理由が、はっきりと分かりました。
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