クールな公爵様のゆゆしき恋情
まさかアレクセイ様から私に会おうとするなん予想していませんでしたから、この状況の対応策を考えてはいませんでした。

しかも、アレクセイ様の様子がおかしいのです。

「ラウラ、どこか具合でも悪いのか?」

夕食後のお茶の席で、アレクセイ様がおっしゃいました。

「い、いえ……どこも悪くはありません」

そう答える私の顔は、鏡を見なくても強張っていると分かります。

だって、アレクセイ様が私の様子を気にかける言葉を発したのです。
こんな事、ここ数年有りませんでしたから、私が警戒してしまうのも当然だと思います。

「昨日から食欲が無いが大丈夫なのか? ラウラは少し細すぎるからもう少し食べた方がいい」

これは……どう捉えれば良いのでしょうか? 確かに私の身体は同じ年頃の令嬢。例えばデリア様に比べ凹凸が少なく、女らしさに欠けていると思います。
今まででしたら嫌味と受け止めていましたが、今、目の前に居るアレクセイ様が嫌味をおっしゃっている様には見えないのです。声やしぐさから本当に心配している様に感じてしまうのです。

それは私の願望がそう見せているだけなのでしょうか……。思い悩みながらも結局私はいつもの様に答えました。

「アレクセイ様のおっしゃる通り、私には女性らしさが足りませんね。食欲は有りませんが、食事量を増やす様に致します」

いつものアレクセイ様でしたら無視をするか、煩わしそうな視線を私に送るはずです。それなのに今夜は全く違っていました。

ほんの少しだけ動揺の表情を浮かべた後、真っ直ぐ私を見つめて言ったのです。

「そんなつもりで言ったんじゃない。ラウラは……女らしいし美しい」

私は大きく目を見開きました。

アレクセイ様は一体どうしてしまったのでしょうか?

私の事を女らしく美しいというなんて、正常とは思えません。
半年前の夜会では、私の事を地味でルビーが似合わないとはっきりとおっしゃっていたではないですか!
しつこいと思われるかもしれませんが、私は忘れていませんよ。


唖然としてアレクセイ様を見つめていた私は、アレクセイ様のお顔が少し引き攣っている事に気が付きました。

私を褒めた事で気分が悪くなってしまったのでしょうか?

どちらにしろこれではっきりとしました。

信じられない事ですが、アレクセイ様は私に気を使っていらっしゃいます。
自分の気持ちを曲げて迄私に優しくしようとしているのです。

私が婚約者候補だからでしょうか。
アレクセイ様は結婚話を進めるつもりですから、私を早く納得させようとしているのでしょうか。

そんな事……アレクセイ様がする必要は無いのに。
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