クールな公爵様のゆゆしき恋情
「アレクセイ様、早く逃げてください!」

アレクセイ様も帯剣していますが、相手は三人です。どう考えても不利で危険なのです。

ベルムバッハ王家の方達を守るのはアンテス辺境伯家の役目です。ここは私が盾にならなくては! そう思うのに私にはアレクセイ様を動かす力が有りません。

先程から必死に腕を引っ張っているのに、アレクセイ様はびくともしません。それどころか下がってろと言わんばかり私を背中に追いやるのです。

アレクセイ様は私を押えながら、そのお顔に不敵な笑みを浮かべて言い放ちました。

「いいぜ。相手をしてやるよ。だがここでは駄目だ、騒ぎを起こしたら、見回りの騎士に見つかって止められるかもしれないからな」

アレクセイ様はどうかしてしまったのでしょうか? こんな状況で相手を挑発する様な事を言うなんて。

「相手をするだと? いい度胸だな!」

案の定、更に興奮させてしまった様です。

「こっちだ、逃げるなよ!」

男性達アレクセイ様を睨みながら、そう吐き捨てますが、アレクセイ様は引く事無く、一歩前に踏み出しました。

「敵前逃亡の趣味は無い。俺は一度も敵に背中を見せた事はないんだ。お前達こそ後悔するなよ」

その迷いの無い言葉に、私は目を瞠りました。

アレクセイ様の王族としての誇りを強く感じ、何も言えなくなったのです。

考えてみれば、アレクセイ様が背中を向けて逃げたりする訳が無いのです。

王都に居る時もアレクセイ様の勇猛果敢さは貴族の令嬢達の語り草でした。
この場もその誇りにかけて、退く事は無いのでしょう。

男性達は脇道の日の光の届かない、更に奥へと進んでいきます。

あんなに遠くへ行ってしまっては何か有っても助けを求める事が出来ません。

それでもアレクセイ様だけを行かせる訳には行きません。私も後に続こうとしたその時でした。

アレクセイ様はクルリと踵を返し、私の腕を掴むと、風の様な速さで走り出したのです。

「え? え?」

私には何が起きているのか分かりません。

だって、敵前逃亡はしないはずのアレクセイ様なのに、これはどう考えても逃げているとしか思えません。

王族の誇りはどうなったのでしょうか⁈

小さくなる男性達の叫び声を来ながら、私はアレクセイ様に引っ張られながら息を切らせ、必死に駆けて行きました。
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