クールな公爵様のゆゆしき恋情
食事が終わり自分の部屋に戻ると漸く落ち着く事が出来ました。

アンネには早めに下がって貰い一人になると、私は窓を開け、バルコニーへ出ました。

アンテス城は小さな山の上に有りますから、城下街の様子が良く見えます。

街の東側に、夜なのに煌々と灯りの灯った一画が有ります。あの辺りには街の人や旅の人がお酒を飲む為の店が集まっているそうです。お父様の命令で私は出入り禁止とされていますので、近付いた事は有りませんが、沢山の人が眠らずに夜を飲み明かして過ごすそうです。

ぼんやりと灯りを眺めていると、昼間の出来事が思い浮かびました。


私はどうしてあんなに感情的になってしまったのか。アレクセイ様と通りを歩いている時も、馬車に乗っている時も、食事をしている時もそればかりを考えていました。

そして気付きました。私があんなに悲しかったのは、アレクセイ様の謝罪を受け入れられないからなのです。

アレクセイ様は八つ当たりをしてしまった。後悔しているとおっしゃって謝罪して下さいました。私に歩み寄ろうとしてくれました。それなのに私は受け入れられないのです。

三年間。私は毎日悩んでいました。どうして私はアレクセイ様に嫌われてしまったのか。婚約が嫌なのだとしても、必要以上に傷付く様な事ばかりを言われるのはどうしてなのかと。

それはとても辛い毎日でした。夜会で顔を会わせても、私を無視して他の令嬢とダンスを踊るアレクセイ様を見る度に、心がばらばらに壊れていくようでした。

今、私がアレクセイ様を諦め距離を置ける様になったのは、そんな毎日を過ごして絶望し自分自身を見失いそうになったけれど、寸前の所で新しい道を選ぶ事が出来たからなのです。

それは、私にとっては身を切られる様な決意でした。ですから今になって謝られたからと言って、私は決意を覆せないのです。

認めたく有りませんが、私は今でもアレクセイ様に心を乱されます。その華やいだ姿を目にすると心惹かれてしまいます。

私はまだ、アレクセイ様の事が好きなのです。

ですが、もう側に居たいとは思いません。側に居れば私は幸せになれないと分かっているからです。好きだけれど離れたいのです。

だから、もう心を乱す様な事は言わないで欲しい。私をどうか放っておいて欲しいのです。

今の私の願いはそれだけなのです。

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