水素と結晶と万年筆
「さーなちゃん!水筒ちょーだい!」
「はいはい……」

あれから、3ヶ月が経った。

先生はもう塾にはいないから、
私の英語担当は別の女の先生に変わったけれど、それ以外は何も変わらない。

まあ、確かに先生が一人辞めたくらいでは、
日常はそうそう変わらない。

ただ、私の気持ちだけは少しずつ変わっていて、
先生を忘れられたわけではないけれど、
今ではちゃんと彼氏がいる。

頭が良くて、スポーツはそこそこ。
身長も180㎝くらいあるし、
いわゆるイケメンだ。
しかも、2歳年上で私を甘やかしてくれて、優しい。

本当に非の打ち所のない彼氏。

ただ、1つ。ゲームが好きすぎて、インドア派ということ以外は………。

まあ、私もゲームは好きだし、一緒にいるだけで幸せだからそれで良い。

絵に描いた様な幸せな日々。

受験とはいえ、まあまあ充実した毎日を送っている。

それでも、きっと心が満たされないのは、

先生がまだ私の心の中に残っているからかもしれない………。


「彩南ちゃん。聞いてる?」
「ん?ああ、ごめん」

同じクラスで同じ部活、楽器も一緒の瑠美は
修学旅行の関係で、同じ班の後ろの席。

今も休み時間で、いつも通りガールズトーク中。
もちろん、内容は恋バナ。

「だからさぁ……光樹とね!昨日ね!LINEでね!喋ったのよ~!」

「へぇ~……んで?(笑)」

「いやぁ~!もう、めっちゃ楽しかった~!」

「いやいや!それだけ!?……はぁ、告白とかはしないわけ?」

「出来る分けないでしょ?1度別れた相手だよ?そうそう簡単にはいかないよ~……」

「まあ、そっか………」

光樹………くんは、瑠美の元カレで好きな人だ。

いろいろあって瑠美がフったらしいけど、
瑠美はまだ好きなんだと言う………。

正直、私は1度も話したことがないけれど、
瑠美も光樹くんも学年委員をやっているから、顔くらいは知っている。

「彩南ちゃんこそ~、最近、彼とはどうなのよ~(笑)」

「ん~?もうすぐ2ヶ月だね~、
ってことくらいかな~?
ほとんど毎日、メールとかはしてるし、
今週末は久し振りに会うから………
まあそれくらい?」

「うっわ~、マジでリア充、爆発しろよ(笑)」

慧と付き合い始めたのは2ヶ月前の4月20日。

元々、電話をすることが多くて、
暇な夜は連絡を取り合って愚痴やら相談やらをする仲だった。

もちろん、その日も電話をしていて、途中までは本当にいつも通りだった。

それが、私が先生の話をすると、慧の雰囲気がおかしくなった。

「彩南はその先生のことが………今でも好きなの………?」

「え?う~ん…たぶん…もう、好きではない………」

「そっか……俺は彩南のこと好きなんだけど……付き合って、くれない?」

「え!?あの………慧、ごめん。少し考えさせて………」

「分かったよ(笑)待ってるからね(笑)」

その後、数日して私は答えを出した。

返事はyes。

この人になら甘えらる。

それが理由だった。


本当に優しい人。



今週末には、慧に会うことをとても楽しみにしているし、ペンケには慧から貰った指輪をチェーンに繋いでつけている。

私は慧の彼女だ。
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