水素と結晶と万年筆
「彩南!こっち!」
「慧~!久し振り~~!」

今日は、慧と久し振りのデートだ。

最近は、私の体育祭やら修学旅行やらで
会えていなかったから
本当に楽しみにしていた。

「慧、今日はどこ行く?」
「うーん………じゃあ、いつも通りでいっか(笑)」
「うん(笑)」

私たちのデートはだいたい池袋か新宿と決まっている。

池袋は始めは、サンシャイン60に行って、それから東急ハンズを回ったりするコース。

元々、早稲田大学の近くに住んでいた慧とは、
恋人になる前からよく一緒に出掛けていた。

池袋は私の一番好きな街だったし、
慧は絶対に私に気を使わせないから、
いつもすごく楽に側にいてくれたから。

サンシャイン60を回り、
私のイヤリングを買って、
東急ハンズに移動して、
パソコン用のステッカーを買った。

もうすぐ5時半。
明日は学校だし、門限が迫っているから最後にチェーン店のカフェで、軽く話す。

「もうすぐ2ヶ月だね~」

「そうだね。何かしようか?」

「え?良いよ(笑)慧も忙しいでしょ?私も受験生だからさ~」

「まあ、ね。そう言えば、 高校はどこ行くの?」

「うーん………まだ微妙。
決まってはいるんだけど、偏差値が届かなそうで………」

「そっ……か。あのさ。俺、大学は留学しようと思うんだ」

「へ?」

「いや、だから留学をしようかな……って。
通訳になるには、一番の近道だし。
何より、ネイティブの英語には触れておきたいからさ………」

「そっか~……」

慧は今でも、有名私立大学の付属高校に通っている。夢は通訳者になること。

本当は、慧は良いお家柄の人だから
家を継がなきゃいけないらしいけれど、
慧はそれは望んでなくて。
もしかしたらお姉さんの旦那さんが継いでくれる………らしい。

「うん!良いと思うよ!!」

「本当に!?俺は彩南が良いと言ってくれるかが一番の不安だったんだけど(笑)」

「慧の夢だもん!私は応援してる!」

「………うん!ありがとう!…………それじゃ、そろそろ帰ろうか。駅まで送るよ」

駅までの帰り道、慧と手を繋ぐ。
ごった返す人の中に、温かい手の感触。

私はこの人に守られているんだ、としみじみ感じていた。
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