水素と結晶と万年筆
慧とのデートから約一週間。

今日は土曜日で、いつも通り塾に来た。
今日の担当は、優しい金古先生!

男の先生だけれど、The草食系男児!という感じで、授業も分かりやすいし、そこそこ気に入っている先生だ。

自動ドアが開き、いつも通り塾長に会釈をして、顔をあげると………






(なん………で………)

そこには、私の大好きな人がいた………。

コピー機の前に立つ姿。

驚いていると、先生はチラリとこちらを見て目が合う。

それが、何も変わっていなくて…………


(なんで?どうして?)

荒れる心を必死で隠して、平静を装って、
塾長に席を確認すると、座席に向かう。

(先生、まだ6月だよ?夏前じゃない……)

見たらダメだと思う心とは裏腹に、
目だけは先生を追ってしまう。

先生も、私を見てまた目があった。

軽く会釈をすると、先生も返してくる。

(ダメ………ダメだ。あと………あと少しだったのに…………何で?………何で……)

ダメだって分かっていたのに、
先生を見ると心に封じ込めていた気持ちが
一気に溢れ出してきて、溺れそうになる。





その日の授業は、本当に上の空だった。

いつも通りにしていたつもりだけれど、
正直、あまり記憶がない。

帰る時も、先生はこちらを見ていて、
目が合うと会釈をする。

私は元担当の生徒だし、
辞めるときには手紙を渡したのだから、
気にしてくれて当たり前なのだけれど……



それが今は嬉しくない。



薄れていた先生への想いは………











もう、取り返しのつかないほどに溢れかえって加速していた…………。
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