水素と結晶と万年筆
蝉の鳴き声が教室に響く……。

明日は修了式。そして、明後日からは夏休み。
7月末なんてあっという間だ。


「彩南ちゃん!それで、別れたの!?
あんなイケメンと!?」

「そうだけど?」

「うっわ~、もったいない!!
何で、2つ上のイケメンよりも、10コくらい離れたおじさんを選ぶわけ!?」

「ちょっと~、おじさんは失礼でしょ~(苦笑)
先生だって、大学生か大学院生かそれぐらいよ~(笑)」

「はぁ~……でも、ホントにもったいなかったって~……」

「もー、いいでしょ!私の恋なんだから!」

「はいはい(苦笑)んで、その人コンクールに呼ぶの?」

「呼ぶ訳ないでしょ?そんな、勇気ないっつーの!」

「それもそうか(笑)」

私達は吹奏楽部だから、今年も夏のコンクールに出なくちゃいけない。
今年は30人の部員がいるけれど、毎年の恒例で一番人数の少ない部門にエントリーする。
本番は8月2日。今も放課後の練習の真っ最中………と言いたいところだけど、実際は瑠美との恋バナになっている。
まあ、後輩が休みだから教室には二人だけだし、少しくらい休憩をとっても良いだろう。

「んじゃ、練習!練習!瑠美、今日塾でしょ?早く帰んの?」

「あっ!うん!彩南はー?」

「私もー!」

「んじゃ、5時半になったら一緒に帰ろっか~」

教室に響く蝉の鳴き声とサックスの音。
今年のコンクール曲は『マードックからの最後の手紙』。
作曲者が、マードックという船乗りの友人から最後に貰った手紙を題材にかかれた曲で、吹奏楽の定番である。
そして、実は私は転校前の学校でやったことがある。
それでも、何度聞いても聞き惚れるこの曲は………瑠美の奏でるアルトサックスの優しいメロディーは私に先生のことを思い出させていた………。
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