エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
プロローグ









家族の顔は覚えていない。


……と言えればかっこよかったのだけれど、残念ながら、覚えている。

私が生まれたのは北のはずれの農村で、両親も、4人の兄姉も、みんな優しかった。

優しかったけれど貧しかったので、〈リーフ〉として目覚めた末娘の私は、あっさりと人買いに売り渡された。


8歳の時だった。


タチの悪い風邪をひき、何日も咳の止まらなかった父の手を、「お父さん、大丈夫?」とほんの気まぐれに握ってみたのがきっかけだった。

私の中から何かが父へと流れ込んでいく感覚があって、次の瞬間、咳がピタリと止まった父が、おどろいて私を見た。

私を見た父は、さらに目を丸くした。

さっきまで黒かったはずの末娘の瞳が、あざやかな緑色に変わっていたからだった。






それからあっという間に私は人買いに売り渡され、気付いたら首都を目指す馬車に揺られていた。

私を愛してくれていたはずの家族が、こんなにあっさり私を売ったなんて信じられなかった。

つまり、今まで「私」という選択肢しかなかったのが、私が〈リーフ〉になったことで「私」と「お金」の二択になり、両親は迷わず「お金」の方を選んだのだ。

そういうことなんだ、とようやく飲み込んだ頃、馬車は首都の一番外側にある歓楽街の花街についた。
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