エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
「―――リイナ?」
ポン、と気安く肩を叩かれ、同じく気安い口調で名前を呼ばれる。
何をされるかと身構えていた私は、逆におどろいて男の顔を見上げた。
「おお、やっぱりリイナだ。大きくなったなあ」
男は親しげに笑いかけてくる。
私がキョトンとしているのに気づくと、「なんだ、俺のこと忘れちまったのか?」と顔を近づけてきた。
「まああれからけっこう風貌も変わったからな。
だけど『お父さん』の顔を忘れるとは、お前も冷たいヤツだなあ」
『お父さん』……?
言われて、私はまじまじと男の顔をながめた。
浅黒く引き締まった顔立ちの中の、愛嬌のあるおっとりとしたタレ目。
あれ……この人、もしかして……。
「……アラキさん?」
記憶から掘り起こした名前を口にすると、彼はタレ目を糸みたいに細めて満面の笑みを浮かべた。
「そうそう!思い出してくれたか!久しぶりだなあリイナ、元気だったか?」
そう言って、アラキさん―――『花の庭』で私をかわいがってくれたねえさんの恋人だった男は、今度はバンバンと私の背中をたたくのだった。
***