エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜

私が聞くと、アラキさんは大丈夫大丈夫、と手をふった。

「あの店は知り合いの店でよ、青空市ってどんなもんなのか興味本位でくっついて来たら店番頼まれちまったんだよ。
けどもう店主が戻ってきてるだろ」

「ふうん……そうなんだ。じゃあ、アラキさんは今も『境』のあの酒屋に?」

「いや、あそこはずいぶん前に辞めた。今はこっちで仕事してる」

「へえ、どんなお仕事?」

「昔とたいして違わない仕事だよ」

タバコの煙を吐き出しながら、おもしろくもなさそうに言う。

そっか……『境』から流れてきた下層の人間が、この街で立派な職業につけるわけもない。

(またどこかのお店で、雑用でもやってるのかな)

そう思って、私はそれ以上彼にそのことを尋ねなかった。


かわりに、別のことを口にする。


彼に再会してからずっと頭の片隅にあった……口に出すタイミングを探していた、その一言を。



「―――ミズホねえさんとは、どうなってるの?」

< 133 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop