エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
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「あら、リイナさん」
ため息をこぼしながらマジュの部屋を出たところで、廊下の向こうからそう声をかけられた。
見ると、ルイさんがこっちにやって来るところだった。
「あ……」
今日もパンツスタイルのナース服を姿勢よく着こなしたルイさんは、言い訳の言葉を探す私の前までスタスタと歩いてくる。
私は叱られるだろうと思って身構える。
けれど、ルイさんの口から出てきた言葉は小言ではなく、「あなた、タルトは好き?」だった。
「午前中にトウジさんにお会いする用事があったんです。
その時にこちらへのおみやげをあずかって、今メイドさんに渡したところ。
ミヤモリ屋っていう有名な老舗のレモンタルトですって」
「え……あ、はい」
「いい匂いがしたわよ。お茶の時間が楽しみね」
「はい……」
私は口の中でモゴモゴと返事をする。
ルイさんはそんな私をクールな目つきでじっと見つめた。
それから私の肩を軽く叩くと、マジュの部屋へと入っていった。
パタン。
ドアの閉まる音と同時に、ほっと緊張が解ける。
それでも気持ちは晴れないまま、私はまたひとつため息をこぼしながらノロノロと廊下を歩き出した。