エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜


あれから……あの事件があってから、この屋敷で私に関わる大人たちの態度が少し変わった。


ハルヒコ様は前と同じように明るく穏やかに私に接してくる。

けれど、手を握ったり肩を抱いたり、身体に触るようなことは一切しなくなった。

以前はあれだけスキンシップの多い人だったのに。

……きっと、男性の自分が触れることで私を怯えさせないように、とか気を使ってくれているんだろう。

……たぶん。



トウジ様とはあれから一度、電話で話す機会があった。

彼だって当然事件のことを知っているはずなのに、電話口ではそのことについては何も触れてこなかった。

どころか、自分が私に依頼した「ハルヒコ様を癒す」件についてさえ、話題に出そうとはしてこなかった。

やあ元気かい、そろそろ夏だね、会話はそんなたわいもない内容に終始した。

その後も直接訪ねては来ないけれど、今日ルイさんがタルトをあずかってきたみたいに、
ハルヒコ様が「兄さんからリイナに」と言ってお菓子や果物を持って帰ってくることが何度かあった。

やり方が不器用だけど、私を気にしてくれていることだけは確かみたいだ。

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