エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
ハルヒコ様が帰ってきたのだと思って、あわててベッドから起き上がる。
けれど、部屋の中にも、開けられたままのドアの向こうにも、人影はない。
ただ、すぐそこの廊下を走っていく足音が聞こえて―――すぐに遠ざかって、消えた。
誰かがあの扉のところから私を見ていて、走って逃げた?
ハルヒコ様でないなら、あとは使用人の人たちしかいない。
お金で買われてきた私に対して思うことは色々あるだろうけど、隠れてジロジロ眺めてから逃げるなんて、やることが幼稚なんじゃない?
気分を悪くしながら、私は廊下に顔を出した。
当然、そこにはもう誰の姿もない。
そこへハルヒコ様が帰ってきた。
「どうしたんだい、何かあった?」
覗かれていて不快だった、なんてことを訴えるのもバカバカしい気がして、私は何でもないと首を振る。
「そうかい?なら案内の続きをしようか。次は三階だ。そこにマジュの部屋がある」
その言葉を聞いて、私は無意識に息を吸いこんだ。
マジュの部屋。
「ようやく君に彼女を紹介できるよ」
ハルヒコ様が弾んだ声で言って、私の肩を抱く。
―――対面の時が、ついに来る
私は彼に気付かれないように、そっと自分の手を握りしめた。
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