エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
逆流が止まる寸前に見えた、ブレた映像。
揺さぶられるマジュが必死に見上げた先にあった、その男の顔。
乱れた鳶色の髪、欲望に燃えた鳶色の瞳―――。
甘くもつれた舌で、マジュが繰り返し叫んでいた相手の名前が耳によみがえる。
『お父様……お父様ぁっ……!』
(ハルヒコ様……どうして?)
私の手を包む、あたたかな手のひら。
けれどこの手が、あの記憶の中で少女の身体をなぞって暴き、訴えるように伸ばされた少女の手を奪って、シーツに縫い付けた―――。
私は何を見てしまったの?
あれは一体どういうことなの?
ねえ、マジュ。
あなたは彼の娘なんでしょ?
ならどうして、あんな……。
ハルヒコ様の手のひらの温度を感じながら、私は自分の手の中にあるマジュの手を縋るように強く握った。
混乱する私を突き放すかのように、その手はいくら握っても冷たいまま、私の体温をなじませてはくれなかった。
***