エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜

「―――この子は、誰だ?」

少女を見つめて、彼がつぶやく。

「……あの、旦那様、わたし―――」

「ああ、そうだ、マジュだ。私の……僕たちの天使。僕とマリエの……」

少女の正体に思い当たったように、ハルヒコ様の表情がぱっと明るくなる。

けれどその顔はすぐに固まり、彼はまた不思議そうにつぶやき出す。

「マジュ……?マジュがいるわけはない、この写真にいるわけが……」


―――様子が、変だ。


ハルヒコ様は、「この少女は誰だ」と首を傾げ、「マジュだ」と認識し、「マジュのはずはない」と否定することを繰り返している。

ふざけている雰囲気じゃない。

大真面目に、だ。

どうしちゃったの?

私はそばに立ったまま、何も言えずに成り行きを見守るしかなかった。


「僕たちが結婚した時にマジュがいるのはおかしい……マジュは僕とマリエの間にできた子……僕の娘。この写真に写っているわけはないんだ……」


ハルヒコ様は尚も繰り返す。

彼が言いたいのは、つまり「マジュはこの写真の時点では生まれていないはず」ということだろうか。


だけど……この写真の日付は10年前のもの。

マジュの現在の年齢は、たぶん17、8歳かそれ以上。

本当にハルヒコ様とマリエ様の間に生まれた娘だとしても、10年前に二人が結婚した時にはマジュはとっくにこの世に生まれている計算だ。
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