エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
なのに、ハルヒコ様にはそれが「わからない」みたいだった。
(どうして……?自分のことなのに。日付もあるのに、この写真がいつのことだかわからなくなってるの?それとも、マジュの年齢がわからなくなった?
……それでもないとしたら、もしかして)
―――マジュが奥様の連れ子だということを、忘れてしまってる?
「うっ……」
写真から目を上げて視線をさまよわせたかと思うと、ハルヒコ様は突然呻いて頭を抱えこんだ。
「旦那様!」
私は驚いて彼の腕を掴んだ。
「旦那様、大丈夫ですか?具合が悪いんですか?」
どうしよう、誰か人を呼んだ方がいい?
迷っているうちに、今度はピタリと呻きが止んだ。
「旦那様……?」
ハルヒコ様は頭を抱えていた腕を下ろし、ゆっくりと私を見て―――笑った。
さっきまで苦しげに呻いていたのが嘘みたいな、いつも通りの穏やかな笑顔で。
「やあリイナ、何をしているんだい?」
「えっ?」
「ああ、私たちが結婚したときの写真か。懐かしいな」
ハルヒコ様は私との最初のやりとりをなぞるようにそう言いながら、写真をのぞき込む。
演技には見えなかった。
だから余計に……気味の悪さがあった。