エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜

｢この部屋を整理していた誰かが、ここに置き忘れたのかな？｣

そうしてそこで、彼はスッとアルバムを閉じた。

｢部屋に持って帰ろう｣


彼の行動は、まるで時間を巻き戻して、都合の悪い部分は飛ばしながら再生するのを見ているみたいで―――


いや、｢みたい｣じゃない。


彼は、本当に―――マジュの話題が出ないようにやり直しをして、記憶の上書きをしてる。


｢リイナ？どうしたんだい、そんな顔して｣

呆然と見上げる私に、ハルヒコ様が笑いかける。

鳶色の瞳が、青ざめた私の顔を映して不思議そうにまばたく。


彼の手がアルバムを持ち上げた拍子に、マジュの手紙がひらりと私たちの足元に舞い落ちた。



『私のお父様になってくれてありがとう。マジュはお父様が大好き』



｢じゃあ、私は行くから。リイナ、また夕飯の時にね｣


ハルヒコ様はとくに気にした様子もなくそう言って、書庫を出ていった。

床に落ちた手紙には、最後まで1度も視線を送らないまま―――



まるで、そんな手紙がこの世に存在していること自体、気付いていないかのようにして。



＊＊＊