エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜

『お父様……』

白く細い指が彼の頬に触れ、涙の跡をなぞる。

『泣かないで……私がいるから……』

マジュが囁く。

祈るような声音で。

ハルヒコ様は彼女に気付くことなく眠り続ける。

その目尻に新しい涙がにじむたび、マジュは優しくそれを拭ってやった。

母親が子供を慈しむような、愛情深いしぐさで。


―――何度目かに涙をぬぐった指先が、ふと目元を離れた。


指先はするりと頬をすべり下り、くちびるに辿りつく。

薄く開かれたハルヒコ様のくちびるからは、静かな寝息がこぼれている。

少女の指はその上下の形をなぞり、それからゆっくりと割れ目をなぞった。

温かく湿った吐息が、指の腹をくすぐる。

少女はその感覚に、秘かに身体を震わせる。


『お父様』


もっと近くで、それを感じたい。

心の声に導かれるまま、彼女は彼との距離をつめていく。


何も知らずに眠り続ける彼に覆いかぶさるようにして―――


マジュは、父親のくちびるに、自分のくちびるを重ね合わせた。



『愛しているわ、お父様』




***


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