エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜





***





―――集中できない。


ペンを握ったまま、私は深くため息をついた。

机に広げた本の内容も、それを書き写すノートの文字も、さっぱり頭に入っている気がしない。

諦めてペンを置く。

マジュの部屋へ行こうかと考えたけど、時計を見るとようやく午後3時を回ったところだ。

この時間ではまだルイさんがいる。

最初は好きな時にやれるだけ行っていたマジュへの治癒は、今は午前中に行うように決められていた。

午後に屋敷にやってくるルイさんが、マジュの脳波や体温などを測定して、マジュの身体が順調に目覚めへと向かっているかを確かめる。

治癒の時間を長く取りたいからといって、彼女の仕事を邪魔するわけにもいかない。

それに、はっきりいって私はルイさんが苦手だ。

いるのがわかっているなら、近づかないに限る。
< 65 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop