エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜

トウジ様から、マジュが起こした転落事故が本当は「自分で飛び降りた」んだと聞かされたときはびっくりした。

けど……マジュからすれば、ハルヒコ様から留学を勧められるというのは、父親から突き放されることであると同時に、愛する男性から拒絶されることでもあったんじゃないかと思う。

たとえハルヒコ様自身は娘を想うからこそした提案であっても、マジュの心はそうは受け取れなかった。

そうして彼女は深く傷付いた。

周りの人間が考える二倍、いや、それよりもさらに深く、傷付いたんだ。


(だからって飛び降りていいわけじゃないけど……でも、つらかったのね。
ハルヒコ様のそばにいたくて、離れる話なんてされたのがあまりにショックで……)


『愛しているわ、お父様』


二度目の逆流の中で聞いたマジュの囁きの、切ない響きが耳によみがえる。

そして、くちびるを彼のくちびるに押し当てたときの、小さな胸が引き裂かれるかと思うほどに膨れ上がったよろこびと苦しさ―――

< 92 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop