溺愛〜ラビリンス〜
「でもなアイツにとって柚は何があっても立ち向かって行かなきゃならない、逃げられない、いや…逃げたりしたくない事なんだ。多分アイツにとっては生まれて初めて、簡単には行かない事にぶち当たって足掻いてるんだよ。」
「坂本…鷹宮の事、良く分かってるんだね?」
「フッ…そりゃ俺と淳稀は同じ立場だからな…嫌でも分かる。」
「そっか…」
上森はそう言ったきり黙ってしまった。俺はこの雰囲気を変える。
「そろそろ帰らなきゃな。送って行こうか?」
「ううん私も迎えが来てる筈だから大丈夫。じゃあね?」
「あぁ。」
上森は教室を出て行った。上森が居なくなった教室は静まり返っていた。 俺は教室を出て廊下で龍也に電話をする。
『悠斗!どこにいるんだ?』
ワンコールで出た龍也は開口一番、いきなり怒鳴る。
「悪かった。今、柚の教室を出た。車、門に着けてくれ。」
柚の名前を出したら、龍也はそれ以上何も言わなかった。
『…分かった。』
電話を切り俺は人気のなくなった廊下を歩き、龍也が待つ校門へと急いだ。