溺愛〜ラビリンス〜

渉の横を通り過ぎると、数歩進んだ俺の背後にさっきより幾分柔らかい渉の声音が響いてきた。そんな事分かっている。今更だろ…だがこれが渉の思いやりなんだろう…


「あぁ…一応礼を言っておく。じゃあな?」


一言だけ残し、そのまま渉に視線を向ける事なく歩を進める。


「あぁ…」


渉の声を遠くに聞きながら階段を下りる。


きっと翔真が屋上にいたのは俺を待っていたのだろう。たった一人でアイツがいるなんて余りない事だ。翔真は俺の行動を予想していた。俺も屋上に行けば翔真がいるような気がして向かった。

そして翔真の側に昔から控える渉は、翔真の考えも行動も分かっていて、あの場で様子を伺っていて多分、俺達の会話も最初から聞いていたんだろう。

まぁ…お互いにこういう事が分かってしまうのは、ガキの頃からの長い付き合いのせいだ。

俺はひとつため息をついて一人になれる場所を求め廊下を歩き始めた。





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