溺愛〜ラビリンス〜

「……翔真……。」


渉が心配そうに俺の名前を呼ぶ。それに気づかない振りをして立ち上がりドアへ向かいドアの前で立ち止まった。


「煙草吸ってくる。」


そう言い残し幹部室を後にする。



廊下を歩き階段でなく非常口のドアへ向かった。ドアを明け踊り場に出る。

手摺に凭れかかり煙草を取り出す。火をつけて深く吸い込む。


「ハァ……」


紫煙を吐き出しながらため息をつく。
情けねぇ……動揺し過ぎだろ?柚の事になると俺は昔から冷静でいられなくなる。
柚が悠斗を選ぶなんて考えたくない……考えただけでおかしくなりそうだ。


それでも……心のどこかで期待している。柚と俺のこれまでの歴史と絆を信じたい。柚に選らんで欲しい。柚の傍にずっと居たい。柚の隣は俺の場所だ。黒い気持ちが広がっていきそうになるのをこらえもう一度ため息をつく。


「ハァ………」


柚の中の俺の存在価値を信じたい。簡単な薄っぺらな関係じゃない。柚を信じるしかない…これは柚を好きになった時から乗り越えなきゃならない試練なんだ。絶対に柚を離さない。


覚悟をして非常口を戻った。




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