溺愛〜ラビリンス〜
柚はベッドから起き上がり、準備を始めた。緊急事態だからか、テキパキといつもの柚からは考えられない程のスピードで準備を終えた。
「準備できたか?」
ソファーに座り待っていた俺の傍に近づいて来た柚にそう言うと、緊張した面持ちでコクンと頷いた。
「じゃあ行くか…」
「…うん。」
俺達は無言で部屋を出た。二人きりのエレベーターの中でも何も話せずにいた。
チェックアウトを終えホテルを出ると、龍也が車から出て来て出迎える。
「おはよう柚ちゃん。」
「…おはよう龍也くん。」
「さぁ乗って?」
柚が明らかに憔悴した様子でいるのを気使って明るく話しかける龍也に、戸惑いながら頷いて柚は車に乗った。
龍也と目が合うと、全て理解していてここまでの間にできる限りの事はやってくれたんだろう、静かに俺に向かって頷いた。俺はその無言の報告に頷いて車に乗り込んだ。
すぐに走り出した車の中は、重苦しい雰囲気で龍也が気を使い明るくしようと話し続ける。柚は視線を車窓に向けていて、時々龍也に返事をしている。