溺愛〜ラビリンス〜
苛々しているのが電話越しに伝わってきたが、それを気付かない風を装って返事をする。
『あぁ…今悠斗と柚ちゃんとそっちに向かっている。あと…20分位だと思う。』
俺の言葉に鈴原はあきらかにホッとして、柚ちゃんが今俺の傍にいる事を確認するように聞いてきた。
俺は傍にいる事を伝え、無事に連れて行く事を約束すると、鈴原は納得をしたので電話を切った。
「柚ちゃん、鈴原からの電話だったけど、柚ちゃんの事を心配していた。あの様子だと、キングはそこまで大変な状態じゃないようだよ。」
「うん…」
安心させようとしたが、まだ柚ちゃんの表情は固く不安なようだ。まぁ、もうすぐ病院に着くし、そうすれば安心できるだろう。
俺はそれ以上は言葉をかける事をやめた。
「間もなく到着します。」
会話もなく静かな車内に森の声が響いた。
「玄関でブラックホークスの奴等が待っているって言ってた。」
「はい。」
会話をしている間に病院の敷地内に入って行く。 どんどん建物が近づいてくる。
車は滑らかに進み玄関前で停止した。