溺愛〜ラビリンス〜
悠斗はそう言って頭を下げると、踵を返し歩き始めた。俺は悠斗に従い一緒に玄関のドアへと向かった。
外に出ると、さっきまでの言い合いをしていた空気と打って代わって、夜明け前の静かな暗闇が広がっていた。
俺は駐車場にいる森に、玄関まで車を回すよう電話をかけようと携帯を取り出した。
「龍也、いい。車まで歩く…」
それだけ言って悠斗は車が停車している駐車場へ歩き出す。
俺は慌てて携帯をしまい、悠斗の後ろを小走りについて行った。
「お疲れさまです。すみません、気がつかず車を回さなくて…」
俺達が車に近づくと、気がついた森が、慌てて車から出てきて頭を下げた。
「森、気にするな。悠斗が歩くって言うから電話しなかった。大丈夫だ。」
俺がそう言うと森はホッとした表情をした。
「はい、了解です。」
森はそう言うと、後部座席のドアを開けた。悠斗は無言で車に乗り込んだ。
俺と森も車に乗り、マンションに向かってすぐに走り出す。
車の中は行きもそうだったが、沈黙が漂い重苦しい雰囲気が張りつめる。 これ以上、悠斗も柚ちゃんも苦しんだり、責め苛まれたりしないですむよう、キングの意識が戻る事を俺は心の中で祈った。