溺愛〜ラビリンス〜
「…うん分かった。渉くん…正直に話してくれてありがとう。」
柚ちゃんは覚悟を決めたキッパリした口調で答え、しっかりと意志を持った目をしていた。
その後は静かに廊下を歩き翔真のいるICUに向かった。
長い廊下を曲がると人影が見えてくる。
「お母さん。」
柚ちゃんはおばさんの姿が見えると駆け出した。
「柚!あなたどこにいたの?」
おばさんの口調は半分怒っていて、半分はホッとしたようだった。
「…ごめんなさい。ゆうくんと一緒にいたの…」
「…そう。仕方ないわね。お兄ちゃんがこんな時に連絡が取れないなんて…こんな事は二度としないでちょうだい?」
おばさんは柚ちゃんに諭すように言った。
「うんごめんなさい。もう二度としない。」
仲の良い親子の姿がそこにあった。いつもと変わらない様子を見て、ただひとつ変わってしまった事…翔真の容体を思うと胸が痛い。
翔真が居れば完璧な仲の良い家族のいつもの風景なのに…
「お母さん、翔兄ぃは?」
「大丈夫よ…ほらあそこ」
硝子越しに見える病室を指差しておばさんが柚ちゃんに説明していた。